公的資金10兆円は、なぜ起業家の手元で薄くなるのか
採択通知が届いた翌週、あるスタートアップのCFOがこう言いました。
「交付額は大きいのに、キャッシュはむしろ厳しくなっています」
この違和感は、珍しい話ではありません。
日本ではスタートアップ向け公的資金の総額は拡大していますが、
現場では「使えるお金」として残りにくい構造があります。
この記事で伝えたいこと
- 予算規模と、企業が実際に使える資金は別物である。
- 資金は4つの層を通る過程で減衰し、とくに第2層と第4層で目減りしやすい。
- 改善すべき論点は「予算の量」より「資金の質(手元残り)」である。
資金の4層構造
公的資金の流れを、次の4層で捉えると全体像が見えやすくなります。
- 第1層:予算配分
省庁に配分される総予算。ニュースで語られる金額は主にここ。 - 第2層:執行・運営
事務局、審査、運営受託などの実行コストが差し引かれる層。 - 第3層:交付決定
採択企業に名目上配分される金額。 - 第4層:純資金注入
企業の持ち出しや対象外経費を差し引いた、実際の“実弾”。
現場の感覚とズレが生まれるのは、第3層と第4層の差が大きいためです。
第2層: 事務局コストは見えにくいが重い
制度運営には、審査・管理・伴走支援などの実務が必要です。
そのため民間委託自体は合理的です。
ただし、課題は透明性です。
事務局費がどこまで成果に結びついたのかが見えにくいと、
「誰のための予算か」が不明確になります。
企業側から見ると、
- 予算全体は大きい
- しかし自社口座には直接入らない費目が多い
というギャップが生まれます。
第4層: 交付額が大きくても資金繰りは改善しない
スタートアップが実際に苦しむのはここです。
代表的な要因は次の3つです。
- 補助率の制約: 全額補助ではなく、自己負担が発生する
- 間接経費の上限: 実態より低い上限だと不足分を自社負担する
- 利益計上の不可: 使途自由の余力資金が残りにくい
結果として、「売上は伸びるがキャッシュは減る」という逆転現象が起きます。
100億円モデルで見る減衰イメージ
仮に100億円の支援枠があっても、企業の体感は次のように薄くなります。
- 運営・管理費で一定割合が先に差し引かれる
- 交付後も、自己負担分と対象外経費で資金が流出する
- 申請支援コストや税負担が追加される
最終的に、企業の自由度が高い資金として残る金額は想定より小さい。
このズレが「採択されたのに楽にならない」の正体です。
改善の方向性
制度を大きく変えなくても、資金の質は改善できます。
- 使途自由なFeeの導入
R&D補助に一定比率の利益計上を認め、企業の裁量資金を確保する。 - 事務局コストの可視化
委託費の成果指標を公開し、費用対効果を検証可能にする。 - 手元資金ベースのKPI化
「採択額」ではなく「純資金注入額」を政策評価指標に組み込む。
おわりに
10兆円という規模目標は重要です。
ただ、現場にとって本当に効くのは、
- いくら配ったか
ではなく、
- いくらが企業の意思で使える形で残ったか
です。
今後の論点は、予算の拡大よりも「資金の手触り」を高める制度設計にあります。