M&Aの現場で感じた「情報の非対称性」という病
はじめに——「なぜこんなに非効率なのか」
大学在学中にM&A関連の業務インターンに参加したとき、最初に抱いた感想がこれでした。
本来、企業と企業のマッチングはシンプルな話のはずです。売り手には事業を託したい理由があり、買い手にはその事業を活かせる戦略がある。双方の条件が合えば取引が成立する——ロジックとしてはそれだけのことです。
しかし現実はまったく違いました。
デューデリジェンスという名の情報戦
M&Aにおけるデューデリジェンス(買収監査)は、本来は対象企業の実態を正確に把握するためのプロセスです。しかし実際に見えてきたのは、当事者たちが意図的に情報を隠し、あるいは都合よく加工するという現実でした。
売り手側は当然、自社をできるだけ良く見せたい。リスク要因は矮小化され、将来の見通しは楽観的に描かれる。買い手側もまた、本当の買収意図や将来の統合計画を全て開示するわけではない。
この情報の非対称性は、取引に関わるすべての人の時間とコストを膨大に浪費させていました。
ブローカーが利益を得る構造
さらに問題なのは、この情報格差そのものがビジネスモデルになっているケースがあることです。
仲介者やブローカーは、売り手と買い手の間に立ち、双方から手数料を得ます。この構造自体は合理的ですが、情報の流れをコントロールすることで自らの不可欠性を維持するインセンティブが生まれます。情報が完全に透明になった瞬間、仲介の存在意義が問われるからです。
つまり、情報を隠すことで利益を得る人たちが、情報を隠す構造そのものを維持している。この循環構造に気付いたとき、これは個別の問題ではなく、ビジネス社会全体の構造的な病だと感じました。
PMI——人間の感情が数字を裏切る
M&Aで最も難しいのは、実は買収後の統合プロセス(PMI: Post Merger Integration)です。統計的に70%以上のM&Aが期待した成果を出せないと言われますが、その最大の原因は財務やビジネスモデルではなく、「人間」です。
異なる企業文化を持つ組織が突然一つになるとき、感情的な対立、派閥争い、キーマンの離職が起こる。しかし、これらのリスクはデューデリジェンスの段階ではほとんど可視化されません。数字で表せない「人間関係のドロドロ」は、従来の手法では捉えきれないのです。
テクノロジーによる構造破壊
この経験が、Tech Knowledge Baseの原点になっています。
私たちが取り組んでいるのは、コミュニケーションの中から無意識のシグナルを抽出し、定量データに変換するテクノロジーです。言葉では隠せるものも、目線の動き、表情の変化、操作の迷いといった無意識の反応は隠せない。
この技術が実用化されれば、デューデリジェンスの精度は劇的に向上し、PMIにおける人間的リスクも事前に可視化できるようになります。情報を隠すことで利益を得ていた構造は、テクノロジーによって不可逆的に解体される。
そう確信しています。
おわりに
情報の非対称性は、M&Aだけの問題ではありません。採用、組織運営、B2B取引——ビジネスのあらゆる場面に存在する構造的な非効率です。
私たちは「コミュニケーションを価値あるデータに」というミッションのもと、この構造をテクノロジーの力で解消していきます。